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目に見えないもの。感じ取る必要のあるものを、読者のみなさんは信じていらっしゃいますか。私は世の中には眼に見えないものが溢れていると思うのです。なにも、おばけだとか、かみさまだとか、いかにも観念的、あるいは宗教的なものを指しているのではありません。例えば、思いやりというものは、目に見えません。愛情だって希望だって、目には見えません。「心」と置き換えてもいいでしょう。良くも悪くも、私たちに「心」を見ることは出来ないのです。それに対し、目に見える現実的なものとしてよく取り上げられるものが「お金」です。定量的でわかりやすく、だからこそ基準を作ることが出来ます。また、対価としての印象も強く、「お金が大切だ」、「お金が好きだ」などと発言すると、こと日本においては敬遠されがちです。おそらくその理由は、「お金を稼ぐ(守る)ためなら『心』を軽視してもよい」という自分本位なニュアンスを勝手に感じてしまうからだろうと私は個人的に納得しています。多くの方が「心」は利他的かつ無償であるという共通認識をお持ちなのでしょう。しかし私はここで読者のみなさんにひとつ伺いたい。「『お金』を稼ぐこと」と「『心』を尽くすこと」は相反するものなのでしょうか。

先日私は「麺匠の心つくし つるとんたん」というお店に行ってきました。言わずと知れた有名なうどん屋さん。店に入ってみてその雰囲気の良さに驚きました。場所は六本木です。和風で上品な作りでした。注文して、料理が運ばれてきて、口に運んで、私ははたと気づきました。なんだかいい気分になっている自分がいるのです。ただ食事をしているだけなのですが、不思議と気分が高揚しておりました。結局、お会計をしてお店を後にしてもその理由は分かりませんでした。

後日、その日の出来事がまだ気になっていた私は「つるとんたん」という店名でネット検索しました。その結果、どうやら運営元はカトープレジャーグループという企業らしいことが分かりました。カトープレジャーグループについてさらに調べてみると、ホテルとフードサービス、公共施設の運営と幅広くサービス業を行っているご様子です。コーポレートサイトを見てみると代表挨拶というコーナーがありました。代表の加藤友康社長のメッセージによると、カトープレジャーグループは総合的なレジャー事業開発を目指しており、クライアントの方からご要望をいただき、最初のマーケティング、コンセプトワーク、プランニング、そして最後のオペレーションまでトータル的に責任を負う、「トータルプロデュースシステム」によって成り立っているということです。これだけ見てもどんな仕事をされているのかよく分かりません。著書をお持ちらしく、加藤友康さん個人に興味が湧いたため、私はそこから加藤友康さんについて検索しました。有名な方らしく、いくつか記事が表示されました。いくつか目を通すと、加藤友康さんの仕事観がおぼろげながらわかってきました。

加藤友康さんは仕事をする上で、お客様に喜んで頂くことだけを徹底的に考えているそうです。「つるとんたん」を立ち上げるときには、一日に12軒ずつうどん屋を回っていたと記載がありました。尋常ではないこだわりです。代表挨拶にあった「トータルプロデュースシステム」とは、読んで字のごとく、全てをカトープレジャーグループがプロデュースするという内容だそうです。お店のオーナーにはお金の心配はしなくて構いませんと伝え、相手に提示した数字を挙げられなかった時には、不足分を自ら支払う、という形で補償をしているそうです。それほどの思いをもって、加藤友康さんはどうしたら客が喜ぶかを考えていらっしゃるということです。ここまで調べてみて、「つるとんたん」で感じた気持ちの理由が何となくわかったような気がしました。誰しも、気遣いや思いやりといった類のものを受けて不快な気持ちにはなりません。ましてやそれが見ず知らずの他人からのものであればなお一層です。その嬉しさがあの日私が「つるとんたん」で感じた感情の正体なのだと思います。

さて、ここで冒頭の質問に戻ります。「『お金』を稼ぐこと」と「『心』を尽くすこと」は相反するものなのでしょうか。加藤友康さんは、いわば商売として心を尽くしていらっしゃいますが、例えば一部の接客業のように、お金のために心を尽くすふりをしているということはないと思うのです。少なくとも、彼のプロデュースした場所を訪れた客の多くは真心を感じるのではないでしょうか。

これは私見にすぎませんが、「お金」と「心」を分けて考えている方も世の中にはいらっしゃると思います。中には「お金を稼ぐには悪いことをしないといけない」という思い込みを持っている方もいるようです。このような偏った考え方について、加藤友康さんのお話はある意味で良い反証になるのではないでしょうか。「一芸に秀でるものは多芸に通ず」という言葉がありますが、それは「思いやり」や「心配り」といったものでも例外ではないように思います。

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